あと少しだけがんばろう
一緒にがんばろう
次の陣痛で生み出そう
産婦は潤んだ瞳をとじ
最後になるだろう陣痛の波を待つ
静まった部屋の中
ドッ ドッ ドッ ドッ
あまりにもゆっくりとした
胎児の心音だけがひびく
産婦の呼吸
表情が徐々に変化していく
陣痛のピークで
その、命をかけたような
渾身のいきみにあわせ
ごめんなさい
私は産婦のお腹の上から
赤ちゃんのお尻を
押し出していく
下では医師が
吸引カップに伝わる手の感覚を頼りに
赤ちゃんを導き出そうとしている
医師の横には
赤ちゃんを受け止めるために
手を添えている
もう1人の助産師
私の向かいには
愛する人たちの痛みを哀しみ
命の無事を一心に願い
涙を堪えている家族
時はあまりにもゆっくりと流れる
膣の間から
髪の毛が
じわりじわりと見えてくる
おでこ
瞳
鼻筋
回旋をまちがえた子は
上をむいて
あれ?という表情をして
私と目があった
次の瞬間
彼女の
力強い産声が響きわたり
身体がみるみる赤く染まっていく
いのちが響き渡り
時が再び流れ始める
ああ
いのちは
こんなにも
こんなにも力強く
この世界にやってくる
夫は張り詰めた糸が
切れたかのように涙をながしながら
嗚咽し
産婦は安堵、よろこび
痛みや苦しみからの解放
出逢いの感動
放心
どんな感情を抱いているのか
私には判別がつかない
けれどこの世で一番
美しい表情で
臍の緒がつながったままの我が子を
裸の胸に抱き留める
バーストラウマという言葉が頭をよぎる
もしバーストラウマというものがあるのなら
私はこの子に
そのトラウマを負わせたのだろうか
彼女は何による怒りか
何による悲しみか
わからない
消化できない感情を
この小さな身体に溜めて
そのまま生きていくのだろうか
完璧に平和で調和のとれた
子宮というユートピアから
無理やりに押し出されていくという
無力感が彼らの
そして
私たちの命の始まりなのだろうか
真実はわからない
だけど
今この世界にやってきたばかりの
あなたの命は
ただ息し生きている
圧倒的な存在感だ
深淵な瞳
母の胸で安心しきって
全てを委ねている
ああ、
この子は
全てを知っているだろうと思う
全てを知ってもなお
そのすべてを乗り越える
命の力を
この小さな身体に持って
生まれてきただろう
彼女がこれから追うであろう痛みも
彼女がこれから追うであろう悲しみも
わたしたちは
取り除くことができない
けれど
この世界で生きたい
生きるんだという
その圧倒的な意志で
この世界に
響き渡る産声をあげたのだと思うのだ
産声は
私たちが
初めて自分の意志でする呼吸であり
私たちの命の宣言だ
この世界で生きたい、生きるんだという
命の宣言なのだと思う
新生児は無力ではない
新生児は何も知らないのではない
むしろ全てを知っていてもなお
産声によって
生きることを
この世界に宣言し
産声によって
その存在を
この世界に証明している
産声の響きは
幾度となく
私のいのちを震わせる
そして
私は今
私のいのちが
かつて同じ響きで
世界を震わせた日を
思い出している
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今ある、私の中のいのちの世界を、表現してみました。
これは私が私の目で見ている世界で、私が創造した、私が信じるストーリー。
私の中にある、沢山の真実の中のひとつだけど、あなたの中の真実とは、違っているかもしれない。
いつからか、世界には普遍的な真実があると思いこんでいた。
学校や塾で習う勉強のように、問題の正しい解き方さえわかれば、
その解き方をみつけたくて、その真実を生きたくて、
きっと、たったひとつの正解なんてない。
だから分かちあいたい。
あなたの世界はどんな世界ですか?
あなたはどんな目で世界を見て、
どんな真実をを生きていますか?
ブレスワークガイド/助産師もりたもえ
〇5月27日 (月)浅草対面ブレスワークセッション